最高裁判所第二小法廷 昭和46年(オ)1193号 判決 1976年7月19日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人吉野作馬の昭和四六年一二月一日付上告理由書記載の上告理由第一点、第二点、第三点一について
債務超過の状態にある債務者が、特定の債権者に対する債務の弁済に代えて第三者に対する自己の債権を譲渡することは、譲渡される債権の額が債権者に対する債務の額を超えない場合であつても、詐害の意思がある限り、詐害行為として取消の対象となることは、当裁判所の判例とするところであり(最高裁昭和四八年(オ)第二三五号同年一一月三〇日第二小法廷判決・民集二七巻一〇号一四九一頁)、このことは、右債権譲渡が債権者に対する債務について譲渡担保を設定する趣旨である場合であつても、また、右譲渡される債権を目的として予め債務者より債権者に対しいわゆる代理受領の委任がなされ第三債務者の承認を得ている場合であつても、異なるところはない。けだし、債務者がその一般財産を特定の債権者のための譲渡担保に供するときは、その結果として他の債権者の共同担保が減少することに変わりはなく、また、債務者が特定の債権者に対する債務の担保として自己の第三者に対する金銭債権につき右債権者を受任者とする代理受領委任契約を締結し、第三者がこれを承認したときは、債務者及び第三者は、右契約の効力として、受任者に対してのみ弁済の受領を得さしめる義務を負うこととなるが(最高裁昭和四一年(オ)第六一一号同四四年三月四日第三小法廷判決・民集二三巻三号五六一頁参照)、他の一般債権者との関係においては、受任者はなんら優先的な地位を有することを主張できるものではなく、債務者の右債権は総債権者のための共同担保を構成していることに変わりはないと解すべきだからである(最高裁昭和二六年(オ)第七四四号同二九年四月二日第二小法廷判決・民集八巻四号七四五頁参照)。これと同趣旨の原審の判断は正当であり、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
同第三点二、三、第四点、第五点及び昭和四六年一二月六日付上告理由書記載の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はなく、原判決に所論の違法があることを前提とする違憲の主張は失当である。論旨は、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 本林 譲 裁判官 岡原昌男 裁判官 大塚喜一郎 裁判官 吉田 豊 裁判官 栗本一夫)